役に立たないフリーランスの話 その15.「ブローカー」

 友人と話していて久しぶりにこの言葉を聞いた。「環境学習『ブローカー』みたいな仕事」なんていう言葉が出てきたからだ。私のように特定のフィールドや集団をもたないで、右から左、東へ西へブラブラと仕事をしているというあまり良くないイメージで語られたように受け取れた。

 帰ってからある一人の人物を思いだした。YMCAに勤めていたとき、パンフレットやチラシ等をつくったりするのに印刷業者が事務所に出入りしていた。複数の業者がいて、カラーパンフレットならA社、新聞折り込みチラシならB社、教材の冊子印刷ならC社などと使い分けをしていた。そんななかで、わりと簡易な印刷を依頼していた業者K社があり、初老の男性Y氏がスーパーカブで営業にまわってきていた。

K社には写植工房や印刷工場はなく、またY氏のほかには社員もいない。来て欲しい旨会社に電話を入れると、Y氏の奥さんが出てポケベルで連絡をとってくれた。この会社には最高の品質は望めないが値段が安くて結構重宝していた。他の部門でもK社をよく使っていたので、単価は安いものの募集時期などにはそこそこの売上げがあったと思う。

 社員も印刷工場もないのに、どうやって印刷会社が成り立つのか最初は不思議だったが、だんだんにわかってきた。いわばフリーの営業マンだったのだ。市内の得意先をまわって印刷原稿を集め、そのまま写植屋や印刷所に行き指示を出し、できあがりを受け取って納品にまわる。というのがY氏の仕事のスタイルだったのだ。

 そういう仕事のスタイルを「ブローカー」だというのを先輩が言っていた。ブローカーは金融、為替や保険、土地などの取引のほか、中古車や印刷などの業界などにもいるのだとはじめて知った。ブローカーとは、「仲買人、周旋屋、仲立人、間に入ってまとめる人」などの意味だ。

 Y氏はたまに赤い顔をして現れることもあった。毎晩毎晩サントリー角瓶を一本空けるほどの酒豪らしく、夕方5時以降はY氏に電話しても酔っぱらっているからダメと職場では評判であった。私がYMCAを辞めてしばらくして、Y氏は身体をこわして亡くなった。おそらく飲み過ぎが原因だろう。しかし私にとっては記憶に残る仕事人のひとりだ。

(2001年12月14日 「Colors of Nature」メールマガジン第253号から)

コメントは受け付けていません。