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2006年02月26日

修士論文「自然学校の発展と課題」

このたび提出いたしました修士論文「自然学校の発展と課題」の梗概(こうがい)および目次を掲載します。
本文は86頁、約7万2千字となりました。

「自然学校」の発展と課題

同志社大学大学院総合政策科学研究科 総合政策科学専攻 博士課程(前期課程)
2004年度 西村仁志

梗概

 日本において「自然体験を中心とした学習施設」「自然を舞台に教育を展開する施設」をつくっていこうという動きが1980年代から始まった。宿泊しながら広大な自然のなかでさまざまな体験ができる大規模な施設から、個人が主宰する小規模な自然観察のつどいまで数えると、現在国内に約1,400〜2,000が活動を行っているといわれており、このような大きな広がりをみせていることは一種の社会現象ともいえるだろう。
 「自然学校」とは、未来を担う世代(子どもたち)の教育の問い直し、悪化しつつある地球環境をはじめとする人類社会の持続可能性への危機感、地方の過疎化と都会への人口集中などを背景として、主に民間のパイオニアたちが起業した「自然のなかでの学び舎」の実践がしだいに専門化し、また社会化しつつある過程であると考えられる。
 自然学校の設立、運営主体は国公立、民間、企業、ボランティアベースなどさまざまである。なかでも独立民営型で起業し、新たなビジネス、マーケットそして公共性を創出してきた自然学校に運営のノウハウや専門性、革新性、そして人材が集中しているといえる。「自然体験学習の専門家組織」として自然学校をとらえた場合に、その専門性が発揮されている要素として野外活動技術、自然解説の技法、参加・体験型学習の展開手法、リスクマネジメント(安全管理)、企画・プランニング、地域計画・地域経営など非常に幅広い。つまり「自然のことをよく知っている」「野外技術に精通している」などということだけではなく、社会や地域の諸課題に対して具体的に解決策を提示していける総合的スキルを身につけてきた専門的組織であるといえるだろう。
 また現在、民営自然学校では年間収支規模が数億円にも上るところから100 万円以下というものまで、つまり法人として指導スタッフを雇用して組織的な運営をしているものから、「個人として運営」あるいは「任意の非営利団体」として法人化しないで運営をしている団体・個人もあり、その裾野はかなり広い。
 これら「自然学校」はアメリカの「Nature Center」や「Outdoor Education Center」などと称する民営の教育施設、そして国立公園制度のなかでその手法が確立した「インタープリテーション(自然解説)」からその指導内容、指導者育成、経営手法などを多く取り入れている。またこの源流には100年以上の歴史を持つ少年組織キャンプ(野外教育)があり、そして世界で初めての国立公園制度をつくりあげた自然保護運動や1960年代以降の環境保護運動にも影響をうけ、またNPO(非営利公益活動)を支える諸制度や文化がある。アメリカではこれらが融合しながら「自然学校」の教育と経営の体系を作り上げてきたといえるだろう。本稿ではニューヨーク州キャッツキル地区にある「フロストバレーYMCA」を事例として取り上げ、その具体的運営について紹介している。
 日本では戦前のYMCA、ボーイスカウトによって導入された青少年への野外教育、そして戦後のキャンプ事業の復興と国による自然体験・野外教育施設の充実を経て、1980年代に「自然学校運動」ともいえる先駆者や関係者達の動きが始まる。「自然とふれあう学びの営み」を「環境教育」として再構成していく必要性に気づいていく人々が登場してくるのである。1987年から毎年、山梨県の清里にあるキープ協会を会場に開催されることとなる「清里環境教育フォーラム」に全国の自然保護、野外活動、青少年活動などの関係者が集い、これが自然体験を中心とした環境教育についてのネットワークの核となってきた。
 1990年代に入るとこの「自然学校」という旗印のもとにはさまざまな関係者が集ってきている。「自然学校」の担い手(経営者および雇用者)はもちろん、「自然学校」にかかわる政策(教育、自然保護、青少年、国土保全、中山間地域や農林水産業、観光振興)にかかわる担当者、政治家、そして企業である。環境省・文部科学省をはじめとする各省庁・地方自治体による「自然体験活動」、「自然学校」関連の政策・施策・事業が活発になり、また近年では企業の社会貢献としての自然学校もホンダ、トヨタ等によって相次いで誕生している。
 こうして自然学校の運営スタイルや活動内容も海外の先進事例の「輸入」にとどまらず、「日本型」のオリジナルな自然学校のあり方が模索され、日本のあちこちに地域に密着し、個性豊かな「自然学校」が登場してきている。本稿では「ホールアース自然学校」(独立民営型)、「いしかわ自然学校」(ネットワーク型)、「京都自然教室」(ボランティア運営型)、「トヨタ白川郷自然學校」(CSR型)という4つのタイプの自然学校への現地調査、聞き取り調査について紹介し、考察を加えている。「ホールアース自然学校」はパイオニアによる独立自営、専門家への志向を強くもち、また自然学校の将来課題ともいえる「持続可能な社会づくり・地域づくり」や災害救援、被災地支援、そして国際協力にも先進的に取り組んできた。
 「いしかわ自然学校」では、石川県の総合的な人づくり政策として自然体験活動を位置づけ、またこれを石川の産業や文化にまで育んでいける可能性をもったモデルを示している。
 「京都自然教室」は20年にもわたってアマチュア・ボランティアによる運営を行い、地域主体で自然学校を継続的に運営していける可能性を示している。
 「トヨタ白川郷自然學校」は日本の産業界を代表する企業ともいえるトヨタ自動車株式会社が社会貢献として本格的な自然学校を送り出してきたもので、産業界にとっても、そして社会にとっても大きな意義があるものだ。
 また最近の大きなトピックとして2005年3月から9月まで開催された愛知万博(2005年日本国際博覧会、愛称=愛・地球博)を取り上げる。「自然の叡智」をメインテーマに掲げて行われたこの万博では博覧会協会主催事業として「森の自然学校・里の自然学校」が期間中開校した。本来の自然学校と大規模な集客イベントである国際博覧会における自然学校とは趣きを全く異にするが、日本の自然学校関係者が万博の運営に関係し、世界規模のメガイベントにおけるNPO/NGOの役割、そして自然学校という分野のNPO/NGOの活動の意義や存在感を示す出来事となった。
 このように自然学校の意義やねらいは時代とともに変化・成長し、求められる役割、使命はしだいに社会全体にとって重要なものになりつつある。「自然学校」のルーツともいえる「少年教育キャンプ」が19世紀のアメリカで始まった当初、こうした活動の中心的意義は少年・少女達の人格形成あるいはレクリエーションであった。そして20世紀前半から進歩主義、経験主義教育の影響を受けしだいに教育的要素が強調されるようになる。さらに人類が地球規模の環境問題に直面している現代においては「自然学校」の意義はまた見直されつつある。それは開発、貧困、資源、人口、ジェンダー、保健衛生、平和、人権などを包括した総合的な環境教育として「地球と人類が共存し、未来に向けて持続可能な社会を構築していくための教育/E.S.D.=Education for Sustainable Development」が重要であるとの認識であり、自然学校についてもこうした持続可能性という視点から新たな位置づけがされつつあるのである。2002年12月の国連本会議では2005年からの10年を「国連持続可能な開発のための教育の10年」とすることが決議された。日本では2003年6月に発足した「持続可能な開発のための教育の10年」推進会議(ESD-J)団体正会員83団体のうち、自然学校、自然体験活動もしくはそのネットワークに関連する団体は30にものぼり、またこの中には日本の代表的な自然学校も入っている。つまり日本においてE.S.D.を推進する有力な担い手であるといえるだろう。
 自然学校においては、自然体験、生活体験を通じて自然エネルギーの利用、食糧の生産や自給、森林や水資源の利用、生命の多様性や循環、アウトドア技術、地域住民をはじめとする様々な人々、セクターとのパートナーシップ構築、地域通貨などの様々な学びと実践が可能である。これらは自然と共生する社会経済システムと「民」中心の社会のあり方にひとつの解決方策を示していける可能性をもつとともに、災害時には救援活動や被災地・被災者支援の役割を発揮することもできる。
 これらはまさに人間の持続可能性、社会の持続可能性を、体験を通じて学び、また実践していくということでもある。つまり自然学校の将来は「サスティナブル・ラーニング・センター」とも呼ぶべき「持続可能な社会を築いていくための学習拠点」となることをめざし、未来にむけた重要な役割を担っていくことが求められていくだろう。

目    次

序 章 1
 第1節 はじめに 1
 第2節 先行研究および本稿で論じる領域について 2
 第3節 研究手法と本稿の構成について 2

第1章 自然学校とは 4
 第1節 自然学校とは 4
 第2節 自然学校の設立・運営主体 7
 第3節 自然学校の実態についての調査 10
 第4節 自然学校のための「場」 11
 第5節 自然学校の「プログラム」 11
 第6節 自然学校の「指導者」とその専門性 12
 第7節 自然学校の経営 15
 第8節 自然体験活動と自然学校をめぐる法制度 18
 第9節 自然学校の近接分野 20

第2章 自然学校の源流〜アメリカから 22
 第1節 アメリカの少年キャンプ 22
 第2節 第二次大戦後の発展 24
 第3節 アメリカ「自然学校」の事例〜フロストバレーYMCA 25
 第4節 まとめ 32

第3章 日本の野外教育と自然学校の発展 33
 第1節 明治〜昭和初期の野外教育 33
 第2節 戦後の野外教育 33
 第3節 80年代「自然学校ムーブメント」の始まり 34
 第4節 自然学校「事業化」・「プロ化」の傾向 36
 第5節 自然学校の先達たち 38
 第6節 90年代の教育政策のなかでの野外教育と自然学校 43
 第7節 自然学校をめぐる中央省庁等の動き 48

第4章 自然学校の事例 51
 第1節 ホールアース自然学校 51
 第2節 いしかわ自然学校 56
 第3節 京都自然教室 60
 第4節 トヨタ白川郷自然學校 64
 第5節 まとめ 68

第5章 愛知万博と自然学校 70
 第1節 愛知万博の計画 70
 第2節 市民参加による計画見直し 71
 第3節 「森の自然学校・里の自然学校」へ 72
 第4節 森をめぐる市民の役割と自然学校 74

第6章 自然学校の展望と課題 76
 第1節 自然学校の経営上の課題 74
 第2節 地域貢献と市民的公共性確立にむけた課題 78
 第3節 災害救援・被災地支援への自然学校の役割 79
 第4節 社会変革にむけて自立する自然学校へ 81
 第5節 「サスティナブル・ラーニング・センタ−」としての自然学校へ 82

おわりに 85
参考文献 1

Comments

� この修士論文を実費で販売していただく予定はあるのでしょうか?ぜひ読んでみたいと思います。自然学校の学びにつなげていくにも必要だと思う内容です。ヨロシクお願いします。

�リクエストありがとうございます。

 いまのところ全文を公開させていただくことについてはまだ未定ですが、ご要望をいただいていることは重要なことと受け止めております。

 決まりましたらメルマガやこのブログにてご案内させていただきたいと思います。

�今日初めて訪れました。

私はIOEという熊本の野外教育研究所の活動に一時期参加していた者です。今は大学院で環境化学を専攻しています。

「環境共育」で検索してヒットしました。

現在から未来に必要なものは環境共育だと思っています。

なぜ検索したかというと、現在就職活動中で「将来仕事にしたいこと」というテーマを考える為です。環境系のコンサルタントやリサイクル業者の研究開発を受けていて、開発のほうで内定を頂いてはいます。

最終的にやりたい事は教育(共育)なんですが、ビジネスになるスキームが思いつきません。

もう通知されているかもしれませんが、論文の入手方法があれば教えていただきたいと思っています。今後の就職活動、またそれ以降で参考にさせていただきたいと思っています。

大学の図書館経由で論文のコピーを入手したり出来るでしょうか?

�野田様

 お二人めのリクエストありがとうございます。

大学図書館でも、検索ではタイトルしか出てこないと思います。(中身の閲覧は教員と在学学生だけ)

一般の方々に読んでいただくほうほうとなると、出版等の方法をとる必要がありますので、ただいま検討中です。

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